大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)674号 判決 1960年7月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉田朗の上告理由第一点について。

仮差押の効力は、これによつて保全しようとする債権の限度に限られるものであり、これを超える部分にまで及ぶものでないこと、従つて、仮差押執行(登記)後に登記された抵当権であつても、右限度を超える部分に対しては、その抵当権をもつて対抗し得るものであることは所論のとおりである。

さればこの点を看過した原判示には、粗笨の嫌いあるを免れないが、ただ本件においては、競売による売得金残額は、わずかに九万余円に過ぎず、しかも、これに対し被上告人の仮差押によつて保全されている債権額が二五万円であること、この債権と本件強制執行の基本債権とは同一の債権であることにつき上告人にも争いがない以上、右売得金残額は、いずれにしてもその金額が被上告人に優先配当されざるを得ない筋合であり、上告人がこの金額の中から配当を受け得る余地は全くないものといわなければならない。

しかれば上告人には右の配当につき異議を述べる利益は全然なきに帰し、上告人の本訴請求を斥けた原判決は結局において正当として肯認せざるを得ない。それゆえ論旨は採るを得ない。

同第二点について。

本件競売手続において、抵当権者である上告人を、手続上利害関係人といえるかどうかは別として、少くとも配当要求もしないで当然に配当に加わり得るものとはいえないとした原判示は、その確定した事実関係の下において、首肯し得られなくはない。

所論はひつきよう右と相容れない独自の見解に立つて原判決を非難するに帰するから採るを得ない。

同第三点について。

所論はひつきよう原審で主張判断のない事項もしくは原判示に副わない事項を前提として原判決の違法をいうか、ないしは右第一・二点の論旨以上を出でないものであるから、採るを得ない。

同第四点について。

しかし上告人は原審において所論附帯控訴の趣旨を陳述したにとどまり、控訴理由を陳述をした形跡を認められない。仮に陳述したものと解し得ても、原判決は単にその記載を欠くにとどまり、その当否は別として、少くとも理由の中において、おのずからその主張の理由のないことを判断しているものと解し得るから、判断の遺脱等所論の違法は認められない。それゆえ論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例